望遠鏡をのぞく彼女
「ウソつき!」
少し怒りながら、彼女は言った。
北海道の広大な大地に彼女は興奮していた。
牧場で食べたアイスクリームの美味しさに感動し、今は、展望台からの見事な眺望にはしゃいでいる。
この町で育った俺には、彼女の感動ぶりがあまり理解できなかった。
人口より牛の数の方が多い田舎…
早く町を出るためにがむしゃらに過ごした学生時代。
自信を持って言える。
この町には、楽しい事なんて何もない!
「あっ!望遠鏡!」 観光地に良くある、コインを入れて数分のぞける望遠鏡が並んでいた。
無邪気に喜ぶ彼女に、なんだかイジワルしたくなった。
「俺が高校生の頃、あの望遠鏡はには噂があったんだ…」
思わせぶりに、今思いついたウソを重ねる。
「右側の尾根にある展望台から、こっちを望遠鏡で見ている人と眼があったら願い事がかなうって…」
キラキラと瞳を輝かせ、彼女は望遠鏡をのぞき込む。
何も見えなくて、慌ててコインを投入する。
尾根にある他の展望台には、望遠鏡なんてない。
「ウソつき!」
それに気が付いた彼女が、少し怒りながら言った。
「左の尾根だったかなぁ〜?」
左の尾根には、展望台すらない。
心の中で舌を出しながらとぼける。
再び望遠鏡をのぞく彼女に、なんでそんなに一生懸命なのだろうと思う。
「あっ!」
彼女がびっくりした顔でこっちを見た。「目が、あっちゃった…」
「まさか…」
彼女から望遠鏡を渡され、左の尾根を探す。
展望台が見えた。
俺がこの町を出た後、新しくできた展望台らしい。
キラリと、尾根の望遠鏡のレンズが光った。
「うわさ、本当だといいね。」
そう言って嬉しそうに微笑む彼女を見ていると、この町も捨てたものじゃないって思えた。