望遠鏡をのぞく彼女の彼

 付き合い出してもう一年。
 お互い、言葉には出さないけど、そろそろ結婚を考えていた。(少なくとも、私は…)
 何かきっかけがあれば、一歩踏み出せるのに、なんとなく月日が流れていく。
「あなたの育った町を見てみたいな…」
 たまった有給休暇を消化して、どこかへ旅行しようと言う彼に言ってみた。
 顔を曇らせ、寒いし、なにもないところだから、と渋る彼。
 自分でもうまく説明できないのだけれど、彼が嫌がるほど行ってみたくなった。
 ちょっとすねてみたり、怒ったふりをすると、彼はようやく同意してくれた。
―――
 北海道は初めてだった。思っていた以上に大きかった。
 どこまでも続く真っ直ぐな道。
 牧場でのんびりくつろぐ牛たち。
 思っていたより寒かったけれど、いつもよりちょっぴりテンションが上がり、はしゃいでしまう。
 彼は、苦笑いしながら私を見ている。
 でも、生まれ故郷が近ずくに連れて無口になって行く。
 重い空気がイヤで、たくさんしゃべった。
「今日は、テンション高いなぁ」
 まったく!
 少し引きつりながら微笑む。
 展望台看板を見かけたので、気分転換に散策することにした。
 アイスクリームがとても美味しくて、少し気分が良くなった。

「あっ!望遠鏡!」 観光地に良くある、コインを入れて数分のぞける望遠鏡が並んでいた。
「俺が高校生の頃、あの望遠鏡はには噂があったんだ…」
 思わせぶりに語る彼の顔は、何かを企んでいる顔だった。
「右側の尾根にある展望台から、こっちを望遠鏡で見ている人と眼があったら願い事がかなうって…」
 望遠鏡同士で眼が合うってなに?…内心思ったけど、とりあえずのぞいてみる。
 真っ暗でなにも見えないので少し慌てたけれど、コインの投入口を見つけてお金を入れる。
 カシャっと小さな音がして、景色が眼に飛び込んできた。
 右側の尾根を探すが、展望台に望遠鏡はない。
「ウソつき!」
 少しすねたように言って見る。
「左の尾根だったかなぁ〜?」
 とぼける彼が嬉しそうなので、私までなんだか嬉しくなる。
 ふと、本当に左の尾根に展望台があって、望遠鏡でこっちを見ている人がいたら、彼の暗い気分も変わるような予感がした。

 望遠鏡をのぞいて左の尾根を探す。
 展望台では、親子連れが楽しそうに、望遠鏡をのぞいていた。
 くるりと望遠鏡がこちらを向くと、少年が大きく手を振った。
「あっ!」
 思わず声をもらす。
「目が、あっちゃった…」
「まさか…」
 彼に望遠鏡を渡す。

「うわさ、本当だといいね。」
 彼との距離がもう少し近くなれたらって想いながら言って見る。
 冗談が本当になったって顔をした彼は、なんだか少し吹っ切れたような明るい表情をしていた。

 カシャって小さな音がして望遠鏡は見えなくなった。
 なぜか私は、二人の間にあった目に見えない何かが取り除かれた音だと思った…