望遠鏡をのぞく彼女の息子
「ママだ!」
望遠鏡をのぞきながら、僕は大きく手を振った。
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「北海道へ行くぞ!」
パパはいつも、とつぜん言い出すんだ。
いつものママなら、急に目が細くなって、パパは「ハハハ…」って笑ってどこかへ行っちゃうんだけど、今日のママの目はニコニコ笑っていた。
はじめて乗った飛行機はスゴかった。
エンジンが「ゴォー」ってなると、ガタゴト走り出して、窓の外におもちゃみたいなビルや川が見えたんだ。
「ゲームのマップみたい!」
って言うと、パパはなんだかニコニコして「本当だなぁ」なんて言っている。
ママも笑いながら僕とパパを見ていた。
空港(飛行機の駅って言ったら、ママがちがうって教えてくれた。)から車を借りて、すごく長いあいだ車に乗った。
見たことがないくらい、道が真っ直ぐで、3Dゲームのフィールドを本当に走っているみたいだった。
牛ってあんなに大きくて臭かったんだ!
牛乳が少し嫌いになった。
「展望台へ行こう!」
パパがママを見つめて言った。
「ちゃんと前を見て運転して!
ママが少し怒ったように言った。
でも、目はコワくなかった。
展望台で食べたアイスクリームはスゴくおいしかった。
「望遠鏡だ!」
走って行ってのぞいたけど、何も見えなくてガッカリした。
「お金入れないと見えないわよ」
パパとママは、ゆっくり僕の後から望遠鏡のところへやってきた。
ふたりで、ニコニコして、手をつなぎながら!
「ここの望遠鏡にはね、うわさがあるの。」
ママがパパをチラッと見て言った。
「右側の尾根にある展望台から、こっちを望遠鏡で見ている人と眼があったら願い事がかなうって…」
コインを入れると、カチャって音がして見えるようになった。
かわいい妹がほしい!
強くねがった。
望遠鏡を右に向けると、ここと同じような場所が見えた。
「ママだ!」
望遠鏡をのぞきながら、僕は大きく手を振った。
あれっ?
望遠鏡から眼を離し、振り返る。
もう一度望遠鏡をのぞくと、今度は、やせてるけど、パパそっくりな男の人がビックリした顔でこっちを見ていた。
カチャって音がして、望遠鏡は見えなくなった。
その後、もう一度お金を入れて望遠鏡をのぞいたけど、向こうの展望台は、もやに隠れて見えなくなっていた。
パパとママは、顔を見合わせて驚いている。
ママは目をキラキラさせて「あのときの親子は…」とか、僕のわからない話を二人で興奮してしてたけど、けっきょく、僕の冗談だと思うことにしたみたいだった。
でも、あれは絶対パパとママだった!
その証拠に、しばらくして僕のねがいごとが、かなえられたんだ。