ジェットコースターに乗る彼女【第15話:最終回】
「ち、ちょっと待って…」
息を切らせて、立ち止まる。
「急に…走るから…」
真っ白い息が、青空に溶けて行く。
「ごめん…」
つないだ手が、ぽかぽかと暖かい。
ジェットコースターのプラットフォームを見上げると、黒い服を着た人影がチラリと見える。
二人で顔を見合わせ、プラットフォームへ急ぐ。
黒いコートを着た細身のスタッフが、お客さんを誘導していた。
「乗ったら安全バー下げてください!」
久しぶりのお客さんなのか、妙に元気のいい声をかけられた。
慌てて乗り込み、手を引いて、ステラさんが乗るのを助けた。
つないでいた手を離し、安全バーを下げると、つないでいた手の平に冷たい北風が染みた。
「とりあえず、乗りながら探して…」
気がつくと、ステラさんの顔色が、少し青ざめていた。
「どうかした?」
「ちょっと、苦手かも…」
出発の合図があり、ジェットコースターが動き出す。
「だ、大丈夫だよ。さっき、コーヒーカップでも大丈夫だったでしょ?」
カタカタ音を立てながら、ジェットコースターが最高高度に引っ張り上げられて行く。
「本当は…吐きそうなくらい、つらかった…」
彼女の手を握りしめる。
「大丈夫、俺を信じて!」
ステラさんが僕を見つめた瞬間、ジェットコースターは轟音と共にスピードを増して、動き出した。
彼女は僕の手を振り離し、安全バーを握りしめる。
前後左右に振り回され、引きつった顔の彼女は、クイーンを探すどころじゃなかった。
「ウソつき〜!!」
ジェットコースターの安全バーにしがみつきながら、涙目の彼女は叫んだ。
ジェットコースターを降りた僕は、ステラさんを抱きしめて、ひたすら謝ることしかできなかった…
―――
最後に観覧車に乗った。
夕日が、静かに沈んで行く。
「結局、クイーン見つからなかったね…」
「でも、楽しかったよ!」
色々あったけど、クイーンを探している間に二人の距離が縮まった気がした。
見つめたステラさんの瞳には、星と夕日が宿っていた。
僕は、その輝きに目を奪われ、そらす事ができなかった。
―――
手をつないで、観覧車を降り、駐車場へ向かう。
駐車場で、二人の横を真っ赤なユーノスロードスターが走り抜ける。
それがクイーンの車かどうかは、二人にはもう気にならなかった。
―――
(完)